【ギャラ通的映画レビュー】ジェーン・カンピオン『ピアノ・レッスン』

(photo:IMDb)

原題:The Piano

ニュージーランドに建設されるロケット射場より、少し離れた場所が本作の舞台だ。

90年台初期の映画でも、内容的にも世間の認知度でも特に高度な完成度を誇る映画。
監督の初々しさは残るが、絵画的な画面からは既にオールタイム・ベスト感を感じる。音楽に関しても、それと合わさる事で「海辺のシーケンス人類史上最高」はおそらくこの作品の20秒ほどになるだろう。
話すことが出来ない(しないのではなく、できない)主人公とその娘はスコットランドから遥々ニュージーランドまでやってくる。物語は海辺と森の中で勧められるが、一環として深い「青」が強調されている。

作品としても大成功しており、1994年のアカデミー賞で主演女優賞、助演女優賞、脚本賞を見事に受賞。勿論カンヌやセザール賞でも受賞多数。名実ともにニュージーランドを代表する映画である。

あらすじ
スコットランドからニュージーランドへ嫁ぐことになったバツイチ子持ちのエイダ。彼女は幼い頃より喋ることができず、自分の気持ちをピアノで表現していた。娘のフローラを伴いニュージーランドにたどり着いた彼女たちを待ち受けていたのは、厳しくも美しい自然だった。開拓者のベインズという野蛮な男に、ピアノを教える事になったのが邦題の由来。そして衝撃のクライマックスへと繋がる。

舞台は19世紀中頃のニュージーランドで開拓者の周辺はマオリ族に囲まれているが、なぜかスコットランドの風の強い丘を想像させるのが不思議な場所。
徹底された色彩統一感は、カラーコレクションをする上でも勉強になる部分が多い。

最初のシーン、スコットランドの幽玄を表すのもうっすらとした朝靄の中の「青」。喋れないエイダに代わり、娘のフローラのセリフが印象に残る。

場面は転換し、ニュージーランドの岸。厳しく長い航海の末にたどり着いた世界の最果ても、また薄っすらと灰色がかった「青」をしている。

現地の婚約者に迎い入れられるが、鬱蒼としたジャングルは文字通り「青々」としており、これも鮮明な色彩で埋め尽くされる画面が印象深い。

「ピアノレッスン」の世界の海は、荒々しく厳しい顔をした未開の自然を強烈に印象づける。それだけに、海の中の静寂、青の深さは一層強調される。それまで激しく燃えるような激情に駆られる音色を奏でていた物語が、そのラストに訪れる静寂のシーン・深い青と結びつく時、この映画はある種の理解にたどり着くのだと思う。

そして何と言っても巨匠マイケル・ナイマンのテーマ曲は最高の環境で耳を傾けたい、映画史上でも屈指の名曲だ。

お勧め度:★★★★★




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